Mission Impossible

〜プロローグ〜

羽田空港第３ターミナル    8:13am

 

日本でのセミナー、講演、全て無事終了し、２つのパンパンに詰まった大きなスーツケースとひとつの機内持ち込みのスーツケースと共に余裕たっぷりの時間に空港に到着した俺はチェックインカウンターの長い列の最後尾に並んだ。今日から８日間、コロナで約３年ぶりとなるタイのバンコクでプロのサッカーやラグビーの選手らの治療をする。バンコクでは仕事が終わった後、夜にマッサージを受けることを楽しみにしている。いつも毎回指名するトングさんの大きな手の力強いマッサージは薄目をあけてこちらから手技を学ぶ程うまいし、また値段も安いし、来日講演が終わり首から背中から腰から足までパンパンに張った筋がそれを心待ちにしている感じがした。

無事全てが終わった満足感も増して、ようやく心身共にリラックスしてくる。

 

 

 

 

３階　タイエアー出発チェックインカウンター前　9:20am

 

うしろの態度の悪いおじさんが文句を言ってる。ふざけんじゃねーよ、何時間待たすんんだぁ。なんと俺たちはかれこれもう１時間は並んでる。列は進んではいるがカウンターは２つしかない。俺の前にはあと５、６人が並んでいた。もうすぐだなと思いながらカウンター近くになった俺に前のカウンターでのやりとりが耳に入る。預ける荷物は合計最大30kgですので重量オーバーで１kg = $40で円換算致しますと、、、とかやってる。あほやの〜。家出る前に計ってきたらええのに。俺はお土産用スーツケースに円安も手伝っていつも通りの爆買い＆最大重量23kg x２つのスーツケース、ギリギリいっぱいまでしっかり計って詰め込んできた。もうばっちり！　えっ、、、合計最大30kg？

 

３階　タイエアー出発チェックインカウンター前　9:39am

 

カウンター前で列を整理しているタイエアーの男性に確認でとりあえず聞いてみた。

１スーツケース最大23kgですよね？いつも俺はANAしか使わないので昔からのルールはしっかり知っている。答えはANAのシェア便ではあるがこのタイエアーはコロナ後からか最大重量が合計30kgになったそうだ。

まずいっ！

俺のは１スーツケースごと目一杯詰め込んで23kg x 2 = 46kg

瞬時に暗算が頭を駆け巡る。

46kg – 30kg = 16kg  

16kg x $40 = $640 = 約１０万円

じゅうまんえん？

持ち込みのスーツケースにいくらか移して残りは全部捨てる？

えっ、ちょっと待って。よし、一つのスーツケースをコインロッカーに入れちまえ。

いきなり列をダッシュで離れてロッカーに３つのスーツケースを引きずりながら走って行ったがいいが、なんと全部使用中。そして最大お預け期間はなんと６泊。俺はそれ以上だから最初っから無理。スーと血が頭から足先へ流れてめまい感。

落ち着け、落ち着け、なんとかせぇ。そうだ、宅急便だっ！

 

２階　宅配サービスカウンター前　9:42am

 

もう無理だ。最終の荷物預けてのチェックインは１時間前までらしい。もう既に終了時間は10分以上も過ぎてる。仕事キャンセル？またチケット買い直し？

諦めてはいけない。必ずなんとかしてみる。とりあえずダメもとでエレベーターまで

走って、走って宅急便探して見つかった宅配便はなんと。２階到着ロビー。

一階下だった（泣）

 

エレベーターの中で自分で踏ん張ってエレベーターを足で下に押してる無意味な俺。

開いた途端、飛び出してまた走って宅配サービスカウンターへ。幸い朝だからか列はなくて一つのスーツケースを速攻預ける。受付のお姉さんに余裕の顔を作りながらすみませんねぇ、急がしてとか言いながら手は震えながら伝票に家の住所を記入、頭の中では神頼み。神様、お願いします。どうか僕を（こういう時だけ俺じゃなくて僕）助けて下さい！チャンスを下さい！最後のチャンスを〜（いつも最後と言いながらそれは毎回繰り返されている）

 

３階　タイエアー出発チェックインカウンター前　9:51am

 

諦めるな、勝手に自分で結論出すな、最後まで諦めるな〜

心の中で叫びながらまたまた一つの大きなスーツケースと機内持ち込みスーツケースを引きずりながらだんだん混んできた空港内を刑事ドラマの刑事の様にかいぬぐって走って戻ってきた汗だくの俺。

もう既にカウンター前に人はいなかった。

列を整理するロープのようなものを係員が片付けている。

 

急遽カウンターにいたさっきの列の整理の男性と目が合った。

俺が手を合わせて頭を下げる。

その男性がタイ人特有の笑顔と共に手を合わせて優しく言った。

 

さわでぇ〜かっぷ、you just made it（こんにちは、ぎり間に合ったね！）

 

 

 

 

 

エピローグ

タイエアー機内　10:32am

 

宅配で出したさっき荷物は夕方には家に着き、家からまた宅配便で俺のタイから戻りの日本帰国前日に羽田空港に送られてきてその日の深夜便でロサンゼルスに持って帰る。

人生、最後まで諦めちゃいけない。

神様も守ってくれる（ときもある）。

もう機内はバンコクの気温に合わせて既に暑い。

これから5000km離れたバンコクへ６時間の旅が始まる。