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緊急大手術

 

 

ようやく自宅に戻った。

感染の為、2回の入退院を繰り返し、点滴や痛み止めの薬を入れられて水も飲めず、ずっと約2週間ベットに寝ていただけで殆ど動けなかったので体重は10キロ落ちた。

最初は起き上がり歩くのがやっとだったけど娘や姉、友人のお陰でようやくなんとか日常生活が出来るようになった。

もちろんまだまだ痛いが。

 

 

11月4日は来日講演の為に日本へ飛ぶ日だった。その6日前にDr.から癌宣告を受けた。癌の1%にも満たない稀な口腔癌だった。

その日に日本行きチケットからセミナーから講演からホテルから温泉から鰻屋から寿司屋から全てキャンセルした。

不思議と自分が癌であることも自然と受け入れてショックは全くなかった。

早く手術しましょうとDr.と話して手術日が11月4日に決まった。

その前夜、娘と最後の晩餐でお寿司をいただいた。でも口がすでに開かない状態だったのでビールで流し込んだ。

でも覚悟は決まった。

俺の最優先事項は生きること

 

 

 

 

緊急大手術は10人の各専門医が集まり朝7時から9時間かかった。

もちろん俺は麻酔で眠らされているので起きた時は全てが終わって身体中コードで繋がれ、幾つもの点滴を打たれ、気管切開で管から酸素を送られて集中治療室にいた。

手術中は麻酔医も含めて専門医たちは各部位で切開、除去、縫合などを行った。

みんなお昼ご飯はどうしたんだろう?笑 

 

 

 

手術後痛みは全くなかった。それだけ強い薬が投与されていたに違いない。

通常モルヒネ系からオピオイド系(麻薬性鎮痛薬)を手術後の痛みや末期がん患者に対して投与される。

寝てはおき、夢から現実へと行ったり来たり、懊悩(おうのう)とする中、いろんな思いが駆け巡っていた。

麻酔は凄い。もし麻酔なしで手術をしていたら根性なしの俺は多分ショックで終わってたと思う。

 

 

 

 

そして俺は生還した。

ただ自分の場合は内臓系でないので痛みさえコントロール出来ればすぐに運動開始をしたかった。

全く動かないと筋は直ぐに萎縮する。なのでベットの上で下肢のアイソメトリックを行った。

なるべく座って血液循環の為のヒラメ筋や大事な体幹エクササイズをした。

そこはATCとして専門分野なので逆にPT(病院の理学療法士)が歩行訓練に来た時に教えてさしあげた。

なんと彼らは奇遇にも以前この大学(USC)で献体解剖学を教えていた時の教え子だった。

 

 

 

医師が言うには俺は驚異的な回復力だったらしい。

もちろん気管切開で喉には穴が空いて通常声は出ないので筆談のみなのに俺は手術2日後から穴が空いてるのにも関わらず呼気で話してた。

毎日廊下を数周歩いて、部屋でフラフラしながら抵抗運動を行った。

口が開かないので夜は音楽を大きく流して一人カラオケ口パクバージョンをして肺と唇のリハビリをした。

出来る限り復活のための下準備を懸命に行った。

メディテーションや深呼吸で痛みをコントロールした。

 

 

退院して大変なのは食事だった。6週間の間、腹部にチューブを通されてそこから飲食&投薬する。

口腔内の手術なので水も飲めない。薬も点滴からか錠剤を潰して粉にしてチューブから入れる。もちろん味はない。

シャワーなどは管が通されている首や腹、皮膚移植をした数箇所をラップで巻いて水がかからないようにする。

時間もかかるし大変な1大イベントとなる。

終わると疲労で倒れた。

 

 

昨日初めての検診があった。少しドキドキしたが不安はなかった。

細胞検査、CT スキャン、血液検査、EKG、X-ray、、、、そして転移は認められなかった。

次回12月3日の検診で放射線治療の有無が決まる。俺は一人楽観視してる。

実はその日の午後から仕事に復帰。患者さんの予約はいっぱい。ただ4時間で終える。

お弟子さんの協力もあるのでなんとかなると思う。

体力、筋力、そして治療に一番大事なのは気力。

 

 

 

昨日は水が飲めた。今日はジュース。明日はスープ。明後日はお粥。

クリスマスにはみんなと好きな物を食べたい。

昨日何週間ぶりに水を飲んだ時の感動は今でも忘れない。

口から喉に流れる冷たい水。

胸に澱り重んだ思いも全て飲み込んだ。

人生長いこと生きていると感動とその感謝を忘れがちになる。

死を直面した時に思うことがある。

生還した時に確認することがある。

俺のプライオリティは生きること

 

人生の第二幕、ゆっくりゆっくり開けようと思う。

 

“気運が来るまでの間、気長く待ち、あらゆる下準備を整えてゆくものが智者である。

その気運が来るや、それを掴んでひと息に駆け上がる者を英雄という”

司馬遼太郎

 

 

 

 

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